2018年2月19日
コンテンツツーリズム調査 『夏目友人帳』の熊本県人吉市1
コンテンツツーリズム
コンテンツツーリズム調査 『夏目友人帳』の熊本県人吉市1

先日、3回目の『夏目友人帳』コンテンツツーリズム調査をしてきました。熊本県人吉市。前回は熊本空港から熊本駅へ出て、電車で人吉に入りましたが、今回は鹿児島空港から入り、バスを乗り継いで人吉に入りました。大河ドラマ『西郷どん』の影響もあってか、かなりの観光客で、観光誘致にも『西郷どん』一色。そんな鹿児島を後にし、人吉へは約40分ほどで着きました。

今回の調査のメインは、一般社団法人人吉温泉観光協会の方にお話を聞くこと。今まで観光案内所でおおまかなファンのお話を聞いたり、聖地でのファンの様子を調査していましたが、まだ行政側(といっても、観光協会は行政の一部ではなく、社団法人化しています)のお話はまだ聞いていなかったからです。

取材に快く応じてくださったのは、一般社団法人人吉温泉観光協会事務局アドバイザーの中神寿一さん。協会の本部は、人吉駅から200mくらいの人吉鉄道ミュージアムMOZOCAステーション868の中にあります。

協会が成立したのは2010年。行政から独立し、それを契機に理事の若返り、女性の数が増えたことなどの策新があったそう。女性理事のアイデアで、ローカルアイドルのHCB(人吉キャンベーンボーイズ)もデビューしたというお話は大変興味深かったです。女性のロコドルは全国にありあまるほどいるものの、男性のロコドルは少ないからです。男性ばかりで考えていたら、きっとでてこないアイデアだっただろうと中神氏も回想していました。

もとい、『夏目友人帳』です。アニメ『夏目友人帳』聖地探訪マップ(2018年2月時点で品切れ中)、ポスター、田町菅原天満宮の絵馬と絵馬掛けの設置、花火大会のポスター、スタンプ、クレーンゲームの設置(2012年のみ)などいろいろと取り組んでいるものの、基本的なモットーは、「何もしないおもてなし」だそうです。あえて手を加えない、あまり前面に押し出さない、という態度は、アニメの聖地では珍しいケースです。ここでは、それが成功を収めていると筆者は考えます。

『夏目友人帳』の主人公夏目貴志は、妖怪が見える能力によって幼い頃から孤立し、しかも両親を亡くして親戚をたらい回しにされていた経験から、常に我慢をしているような少年です。高校生になって遠縁の藤原夫妻に引き取られ、地方(人吉球磨地方がモデルとされている)で暮らすうち、祖母レイコの遺品「友人帳」をきっかけに妖怪たちと出会い、触れ合い、彼を理解する仲間も徐々にでき始めることによって、アイデンティティや自分の存在意義を認めていく、という物語です。アクションもののように、妖怪を退治するでもなく、理解しよう、力になってあげよう、とする貴志と、彼の”用心棒”の妖怪斑(ニャンコ先生)とのふれあいを中心に展開する物語と、美しい風景は、私たちを魅了してくれます。そんな物語の雰囲気と人吉球磨地方の原風景を、協会はとても大事にしているそうです。

現在協会が取り組んでいる課題の一つは、伸び悩む人吉市への宿泊者数を増やすこと。そのため、アジアからの観光客誘致や、イスラム教のハラール認証の食物を提供する「ムスリムフレンドリー」政策を促進するとのことです。アニメ聖地だけでなく、温泉、川下り、鉄道などいろいろなコンテンツを持つ人吉球磨地方ですが、隣の錦町にゼンカイミートというハラール認証取得工場があり、もともとムスリムフレンドリーの素地があることは、筆者は知りませんでした。こうした取り組みは、アニメだけでなく複合的にコンテンツツーリズムをサステナブルにしていく要因だと強く思います。

最後に、時間を延長して取材に応じてくださった中神寿一さんにこの場をお借りいたしまして、深謝いたします。[写真:笑顔が素敵な中神さん]


須川亜紀子
須川亜紀子
Akiko Sugawa-Shimada
横浜国立大学 都市科学部/都市イノベーション研究院 教授
Professor, Department of Urban Sciences/ Institute of Urban Innovation Yokohama National University
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