4月14日、科研費プロジェクトの一環で、プロジェクトメンバー2名とともに上海に行って来ました。上海では、ミュージカル「陰陽師」~平安絵巻~の公演があり、主催者(株)ネルケプランニングの子会社である(株)NELKE CHINA 取締役兼中華圏経営責任者 譚 軍(タン・グン)氏にお話しをうかがうことができました。
(株)Nelke Chinaさんは2014年9月に設立され、中国、台湾、香港、マカオ、マレーシア、シンガポールなど中華圏での2.5次元舞台発展をめざし、舞台公演の企画提案や制作業務のほか、ファンミーティングも開催しているとのことです。Nelke Chinaの会員数は約3万人とのことで、かなりのファンがいることがわかります。これまでもライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」シリーズや『ミュージカル「黒執事」-地に燃えるリコリス-』など、中国、中華圏で非常に人気の高いコンテンツが、さらに舞台としても大成功をおさめています。
今回非常に興味があったのは、2016年9月に中国の会社ネットイースゲームズが運営を開始した日本の陰陽師を題材した和風ゲーム「陰陽師」の舞台化についてでした。ゲーム自体は日本の声優を使っていて、中国では字幕でプレイされています。日本でも2017年2月に配信開始され、約300万ダウンロードされているとのことです。こうした日中融合のユニークなコンテンツを、日本のキャストによる日本語の2.5次元舞台として制作した動機やプロセスについてうかがいました。
きっかけは、ネットイースゲームズが舞台の制作をNelke Chinaさんへ依頼してきたことだそうです。ミュージカル『テニスの王子様』など長いキャリアとノウハウを持つネルケプランニングの実績を100%信頼して実現したもので、ネットイースゲームズは監修のみ、クリエイティブチームに中国スタッフは入れていないそうです。脚本・演出・作詞を手がけた毛利亘宏氏は、キャラの再現性とゲームの世界観をくずさないよう、衣裳、ヘアメイク、小道具の細部にかなりこだわったとのことです。重そうに見える弓や鎌などをいかに動きやすい様に軽量化しつつ重量感を出すかなど、いろいろな試行錯誤があったそうです。ゲーム会社とのコラボは、例えば、毎回公演前に、時間限定、劇場限定、ゲーム内に特定のアイコンにアクセスすれば、ゲームユーザーは同じ敵を倒し(狩り戦)、賞金を貰えるなどがあるそうです。
また、中国でのファンのレスポンスについてうかがったところ、ネット上のSNS
(中国のツイッターのようなウェイボーなど)、ファンクラブ、また観劇に来て直接スタッフに話しかけるといった、積極的なコミュニケーションが盛んにされているとのことでした。日本では紙媒体のアンケートがチラシとともに配られますが、そうしたことは中国では見られませんでした。中国公演は日本公演と比べるとまだ少ないこともあって、全部の公演に来る(いわゆる全通の)「2.5次元舞台ファン」も多く、スタッフの方々も、常連のお客さんとは顔見知りになるそうです。日本とは地理的にも移動が比較にならないほど長いのにも関わらず、公演(北京、上海、深圳、広州など)すべてを追っかけるファンもいるそうです。(*実際会場で、中国はもちろん、日本にも追っかけしているファンに出会いました。)
DVD/BDの輸入品パッケージの販売が、申請時間、手続き、税金などの煩雑さがあり、まだ実現していないことや、日本での上演映像のライブビューイングのような生中継ができない(中国国内の上演映像のライビュは可能ですが、まだ行っていないとのこと)現状がありますが、それがなお一層ファンが劇場に来る、(来ないと見られない)、ということを促進させているようです。
これからますます広がる2.5次元舞台市場。中国では、ブロードウェイミュージカルと同価値として2.5次元舞台が認識されているそうです。日本人による2.5次元舞台こそが、“本物”だと考えられているとのこと。中国はじめアジアのファンは、日本以上に2.5次元舞台を評価してくれているかもしれません。
<謝辞> 今回、大変ご多忙の中、私たちの取材に快く応じてくださった譚社長、ならびに通訳をしてくださった黄輝氏、スタッフの方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
*本調査は、科研費挑戦的研究(萌芽)(課題番号17K18459 代表者須川亜紀子)の助成を受けて行いました。