2015年4月27日
情報発信アニメーション「今、ふたりの道」—アニメジャパンの宮城県ブース
アニメ、マンガ

ANIME JAPAN2015(http://www.anime-japan.jp)は、3月21〜22日に開催され、12万人以上の参加があり、大盛況だったようだ。いろいろなブースを見て回る中、宮城県のブースは他と少し違っていた。宮城県のブースでは、県が主催している「宮城・仙台アニメーショングランプリ」の受賞作品の展示と合わせて、復興情報発信アニメーション「今、ふたりの道」が上映されていた。その制作を手がけた株式会社旭プロダクション スタジオマネージャーの行貞公博氏がインタビューに答えてくださった。

東日本大震災から4年が経ち、被災地では復興が進んでいると思われているが、現状宮城県の海岸沿いでは、まだまだ復興というには程遠い。被災者以外の震災の記憶が薄れつつある中、情報発信アニメを宮城県から依頼され、短編アニメーション「今、ふたりの道」を制作したという。3月11日より4月までニコニコ動画にて配信された(現在は終了している)。

動画説明によると、「この作品は、復興途上である現実を描き、また、これまでの復興支援に対する謝意の表明と記憶の風化を留めるためにつくられた短編アニメーション」だという。
物語の主人公は我妻淳(女性)と佐藤薫平(くんぺい・男性)。高校時代、医者である父の影響から、医者を目指している淳、港町ゆえに将来は漁師になると考えている薫平。しかし、震災は若い二人の人生に大きな意味を与える。東京の大学に進学し、研修医となって、被災した地元に帰ってきた淳。漁師を避け、山間部で農業の手伝いをする薫平。高校を卒業して別れたふたりの道は、今、再び接近する。。。

行貞氏に制作についてうかがった。
1)アニメには津波のシーンが数秒入っています。その理由は何ですか?
震災を描くならば津波の描写は必要。実写では生々しくなってしまうが、アニメーションではその生々しさが和らげられると思う。とはいえ、抑え目の表現で凄惨になりすぎないようにと、監督にお願いした。監督の描写へのこだわりは素晴らしく、生々しさが和らぎながらも緊迫感のある重要なシーンになった。

2)主人公淳を医者に設定したのはなぜでしょうか?
きっかけは、東北に新設医学部を設置する話題があったこと。そこから、医師不足の問題や、地域医療について調べた。その流れで家庭医に辿り着き、家庭医の後期研修医を受入れている気仙沼の本吉病院で取材をさせてもらった。
多くの医者を目指す若者は、医療設備や臨床研修の機会に恵まれている東京の医学部に行き、そのまま東京で医者になるケースが多いと、以前聞いたことがあった。なので、淳は東京の医学部に学び、一流の医者を目指しているとした。父へのあこがれはあったが、地元への強い思いはそれほどなかった。しかし、震災をきっかけに、自分にとっての現場は地元にあると気づく。
医者はそもそもキャラクターの職業の候補のひとつとして取材をはじめたのだが、家庭医や本吉病院の取り組みを知れば知るほど、今回の作品にぴったりだと感じた。

3)エンディングに関して、唐突に終わるような印象でしたが・・・
エンディングは唐突な印象を持たれるかもしれないが、自分が影響をうけたケン・ローチの映画や、アメリカン・ニューシネマのようで、悪くはないと思った。作品が終わった後にも淳や薫平は生き続けていると感じて欲しいし、そこで震災後の時間を日常として暮らしている人々のことを感じられるのではないかと思う。

4)全体的に伝えたいメッセージは何ですか?
(※「メッセージをつたえるために作品をつくったので、それが伝わったか伝わりにくいかは別にして、この質問にはこたえにくいです」・・・という前提でのお答え)
まず、制作にあたって県からの「誇り高い作品にしてほしい。決してお涙頂戴したいわけではないのです」という言葉を作品の軸に据えた。復興支援への謝意の表明と、震災の風化を防ぐためというテーマがあった。

物理的に遠い地にいると、実際の被災地での現状は、なかなか伝わってこない。内陸部では、生活は元通りに近いところがあるが、しかしながら沿岸部はまだまだ。私は関西出身なので、被災はしていないものの、阪神大震災の記憶は未だに強烈です。また、その復興のスピード感は凄まじいものがあった。そのこともあり関西では東日本大震災に対して思い入れは強いものの、すでに復興は終わっていると感じている方も多いのではないだろうか。そのように、東北と、それ以外の地域では震災に対する温度差を感じざるを得ません。
その温度差をなんとかしたいとは、宮城県にあるスタジオとして強い思いがある。それは同情してほしいとか、哀れんでほしいということではなく、見守ってほしいということに近いかもしれない。
 監督であり脚本の西澤氏は、そういう意図をくんでいただき、良い意味でドライなシナリオに仕上げていただいた。また、県の担当者さんも注意深く情熱的な意見をいただけた。脚本の準備稿では、まるで全国ニュースで取り上げられるようなトピックも盛り込まれたのだが、県の担当者からは「政治的なメッセージが強くなり、淳と薫平の日常の目線ではなくなっている」と意見をいただいた。県としても、そこで生きている人々ひとりひとりがまとまって宮城県なのだ、というスタンスで、作品に対して的確な方向修正をしていただけた。<以上>

筆者のような研究者の突然の質問にもかかわらず、お忙しい中、とても丁寧に熱意をもってお話下さったのが印象的だった。すでにニコニコ動画での配信は終了しているが、また機会があれば配信や上映をするかもしれないとうかがった。そんな機会が読んでくださっている皆さんの周りに訪れることを、切に願っている。

追記:株式会社旭プロダクションの行貞公博さんには、記事内容の確認・修正の際もご協力いただきました。また、宮城県震災復興・企画部情報産業振興室主事の大宮由貴さんにも原稿に目を通していただき、ご助言いただきました。この場をお借りして、お二人に厚く御礼申し上げます。


須川亜紀子
須川亜紀子
Akiko Sugawa-Shimada
横浜国立大学 都市科学部/都市イノベーション研究院 教授
Professor, Department of Urban Sciences/ Institute of Urban Innovation Yokohama National University
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