2016年10月26日
ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」〜Amour Eternal〜鑑賞記2
2.5次元ミュージカル・ライブシアター

前回に引き続き、学生から感想が届きました。2.5次元ミュージカル初体験の2年生男子、2回目の3年生男子のルポです。
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 渋谷のAiiA2.5次元シアタートーキョーにて、ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』を鑑賞した。ミュージカル自体ろくに観に行ったことがない私にとっては、2.5次元舞台を観に行くことは勿論初めてだった。
 とてもレベルの高い舞台だったのではないかと思う。2.5次元舞台の常連の方がどのような評価を下しているかはわからないが、私は始終感動しっぱなしだった。各キャラの容姿から話し方まで結構忠実に再現していて、アニメでの彼女らのやり取りや活躍があたかも目の前で繰り広げられているかのような体験をさせていただいた。あのキャラはアニメでもあのような話し方だったな、あのキャストは立ち姿がキャラそのものだななど、観ていて楽しめるところがたくさんあってあっという間に終演になってしまって、時間の流れが速く感じるほど熱中した。
 鑑賞後、客観的に自分の観劇態度を振り返ったとき、自分は2.5次元舞台に2次元の影を追い求めていたということに気づいた。セーラームーンというアニメでは、登場人物たちは女性らしさを前面に押し出したかのような私の中ではかなり独特な立ち姿で描かれている。舞台において、各キャラの見せ場は勿論のこと、他のキャラが話していてただ立っているだけのときですら、アニメのワンシーンを切り取ってきたかのようなみごとな立ち姿をしていて、私はそこに感心しながら観ていた。このように、2.5次元舞台に2次元との共通点を探してはそこに楽しみを見出していたということに気がついた。私の2.5次元舞台の楽しみ方は、あくまで2次元を基準にした楽しみ方だった。
 しかし、まったくすべての観客が私と同じ楽しみ方をしているわけではない。私はそのことをあらためて理解させられた時があった。観ていた人には印象深いであろうタキシード仮面初登場のシーンである。セーラー戦士たち登場の時に一切上がらなかった拍手がなぜかタキシード仮面登場時のみ起こったのである。その拍手が上がった際、私はあまりにもキャストがはまり役すぎて自然と起きた拍手なのかと思ったが、後々話を聞いたところによると、キャストさんは宝塚歌劇団所属の人気女優の方で、ファンの方たちが最前列で登場を待ちわびていたというのが真相。タキシード仮面というキャラの登場に興奮していた私とは対照的に、その方々は自分が好きな役者を見て拍手をした。ようするに、2.5次元舞台に2次元を追い求めて観ていた私とは違い、2.5次元舞台に3次元を追い求めていたのだ。
 上記に挙げた以外にも、初演から千秋楽までのキャストの成長ぶりを楽しむひとなどもいるそうだ。個々人の楽しみ方は、あのシアターにいた人数から考えても到底把握し切れることはないでしょう。様々な楽しみ方、思惑が錯綜する奥深いエンターテインメント。それが今回のセラミュ鑑賞にて感じた。2次元でも3次元でもない、言わば曖昧で中途半端な存在の2.5次元。しかし、だからこそ複数の需要を一つの舞台で供給することができる奥深さをつくることができるのではないかと思った。機会があればまた2,5次元舞台を観に行きたいと思う。(2年 薄葉遥希)

2.5次元ミュージカルを見たのは今回が二度目であった。なのでその魅力に圧倒されつつも、その面白さの秘訣ひいては2.5次元ミュージカルとしての魅力を自分なりにではあるが考えることができた。特に「原作と役者」という視点を中心にしながら考察したい。
 まず、メインヒロインである月野うさぎ役の野本ほたるの声がそこまでアニメ版のうさぎと似ている声質ではないという点を特筆したい。確かに声質は違えど、彼女が演じる月野うさぎはセリフ、動き、そしてそれらから感ぜられる心情全て紛れもなく月野うさぎそのものであり、ひいては彼女のミュージカルパートでは間違いなく月野うさぎの心情が、うさぎ自身の声として歌い上げられていたように感じられ、感動を覚えた。この時に私は、このセラミュが2次元を引っ張ってきたものではない「2.5次元」であるということを強く実感したのである。野本ほたるにしかできない月野うさぎがあり、『美少女戦士セーラームーン』という2次元の話を土台にしながらも、それとは確実に一線を画しているという2.5次元性を再確認した。
 だが勿論2次元と3次元あっての2.5次元でもあり、今回の観劇においてもそれぞれからのアプローチされた演出が作品各所に見受けられた。
 2次元からのアプローチとして、ストーリーが原作に忠実であることは非常に大きいと思われた。アニメにして全39話になるエピソードを数時間におさめるに当たって原作を重視し物語のエッセンスを意識した事は、セーラームーンという作品原作からのファンの心を何より掴むだろう。私のようなセーラームーン自体初見のファンというのは珍しい事例かもしれないが、おかげで私もミュージカルをきっかけにして原作の方にも興味を抱く事ができた。劇中で少しずつではあるが五戦士それぞれの性格を表すようなメインとなるシーンがあった事で、他の戦士たちのストーリーにも興味がわいた。
 また、3次元からのアプローチとしてキャストの魅力を引き出すための演出がなされていることが強く印象に残った。最前列の自分のファンを魅了していた大和悠河演じるタキシード仮面が、タキシード「仮面」であるのに登場直後に仮面を外していた。これは大和悠河の演技における美貌や表情を最大限に見せるという意図での演出なのではないかと思う。他にも、デッドムーンサーカスの3人や外部太陽系戦士は、コメディやシリアスなど演技力の必要な様々なシーンを演じきっていた。さらに元宝塚キャストの多い外部太陽系戦士たちは、ミュージカルパートでも若いャストの多い五戦士の歌声の力強い支えとなっていた。
 あげ出せばキリがないが、これらのような2次元3次元それぞれの側から意図されたような演出が違和感なく緻密に散りばめられており、唯一無二の2.5次元ミュージカルの空間が作り上げられているのだろう。『美少女戦士セーラームーン』という題材が、それらを取り込みながら一つのエンターテインメントとして昇華するに非常にピッタリな魅力の多い物語だからこそであるということも当然ながら述べておきたい。(3年 檀圭一郎)


須川亜紀子
須川亜紀子
Akiko Sugawa-Shimada
横浜国立大学 都市科学部/都市イノベーション研究院 教授
Professor, Department of Urban Sciences/ Institute of Urban Innovation Yokohama National University
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