2018年6月04日
[観劇報告]ミュージカル『アメリ』2
2.5次元ミュージカル・ライブシアター

前回に引き続き、院生および都市科学部二年生の感想です。
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「フランス風情から日本の少女漫画へ――日本ヴァージョンのミュージカル『アメリ』」

先日、フランス映画『アメリ』によって翻案されたミュージカル『アメリ』を観劇しました。以前原作の映画を見て、やはり典型的なフランス風の映画だと思いました。意識流の叙事手法や解放された世界観は、原作映画の思想特徴だと考えます。一方、日本ヴァージョンのミュージカル『アメリ』は、少女漫画の気分となる色が作られている新しい作品で、西洋文化と日本文化を融和することを試みていると思います。

1. キャラクター設定と物語の流れの簡略化――映画から舞台まで視覚特性の変化

映画において、ヒロインのアメリは舞台と同じく真っ赤なワンピースを着ることもありましたが、黒や緑の服装もありました。しかし、舞台において、アメリはずっと真っ赤なワンピースだけを着いていました。このような設定は、ヒロインの楽観、外向的な性格を重点的に外に現していると思います。また、舞台において、配役の物語の複雑性も縮減されました。一方、アメリとニノの恋愛物語の描写に力が入れられていました。やはり舞台は空間や大道具などの制限がありますし、短時間でずっと観客の目を引きつけておくという目的もあります。そして、こうした視覚の衝撃によって、映画より物語の凝縮やキャラクターの突出などが実現され、さらに、観客の臨場感を高めるというメディアの目的を達成しました。

2. ベッドシーンの処理手法――少女漫画風の転換

映画では何回か露骨なベッドシーンがありました。一方、舞台ではこういうプロットを削除して、あるいは、光と影の曖昧な表現手法で呈示しました。これは、映画と舞台がメディアとして、規制の差異があることによって決められたと思います。また、もう一つの理由は、日本の少女漫画風への転換だと思います。

70、80年代での日本少女漫画はまだベッドシーンがよく見られましたが(例えば『ベルサイユのばら』などの漫画作品でベッドシーンはヒロインと男性主人公のつながりや主人公の成長を明らかにする大切な場面とみなされます)、90年代に入ってから、「乙女」という概念が次第に取り入れられました。「乙女」とは、歳若い娘のことで、穢れを知らない女性だと考えられます。とくに、「処女」と書いて「おとめ」と読むこともありますので、そのまま処女を示唆することも多いです。もともと、若い女性向けのアニメーション(『花の子ルンルン』や『美少女戦士セーラームーン』など)での「魔法少女」というキャラクターにおいて「乙女」の設定はあたりまえと考えられます。その後、「乙女」の設定は子供向けアニメーションだけではなくて、テレビで放送されているアニメーションにおいてもよく見えます。そして、こうした女性向けや少年向けのアニメーションで、ベッドシーンはあまり見られなくなってきました。こうした現象は、もちろん、テレビ放送の規制と関係がありますが、少女漫画の「乙女向」という特徴の形成から影響を受けることもあると思います。

こういう少女漫画の傾向は、観客が「乙女」という「無垢の少女」に憧れるという心理を反映します。なので、舞台のような臨場感が強いメディアにとって、ベッドシーンなど激しい性描写を排除して、「乙女」のヒロインを作ることはあたりまえと考えられます(主役の渡辺麻友さんは元AKB48の人気メンバーで、「恋愛禁止」という人物設定を利用したこともあると思います)。また、舞台でアメリは初めてニノの勤務先のアダルトグッズショップへ行って、ニノを探す時にも「修道女」に扮して恥じらっている状態を表しました。これは映画と全然違う設定です。「修道女」の「禁欲」は「おとめ」の本質を暗示することもできると思います。さらに、映画で幼いアメリは最初だけ登場しましたが、舞台で子どものアメリは時折成人したアメリの側に現れます。舞台で「幼いアメリ」というキャラクターの地位の向上も、「おとめ」への追求を明らかにします。つまり、ミュージカル『アメリ』は日本で流行っている「乙女向」少女漫画風に迎合するために、セックスシーンを規制して「純愛」というテーマを明らかにしました。こういう翻案手法は、西洋作品と日本文化の融和を目指したものではないでしょうか。(修士一年 リ ミンイク)
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「ミュージカル「アメリ」を観劇して」

今回のミュージカル「アメリ」の原作は有名な映画だということは知っていましたが、見たことはありませんでした。いただいたパンフレットや元AKB48の渡辺麻友さんが主演を務めるということで興味を持ち、観劇させていただきました。

ミュージカル鑑賞自体、小さいころに親に連れて行ってもらった以来だったので、とても楽しみにしていました。劇場の雰囲気も良く、あらかじめセットされていた舞台装置を見ながら、どんな風に始まるのだろう、このセットがどう使われるのだろうとワクワクしながら始まりを待っていました。

本編が始まって最初に思ったのは、当たり前のことなのですが、役者の方々は歌が上手いということでした。主演の渡辺麻友さんをはじめ役者の皆さんの歌唱力は凄いと思ったし、子役の子も堂々とした歌や演技で生き生きと演じていました。また、カーテンコールの際に音楽も生演奏であったことを知りました。最初に知っていればもっと音楽にも注目できたのに、とも思いましたがそれはそれで気が散ってしまったかもしれないので、最後に教えていただけて良かったです。

内容としては序盤、物語を全く知らなかったので展開の速さについていけない部分もありました。やっぱり映画を観ておいた方が理解は早かったのかもしれませんが、だんだんと状況を把握して入り込めてからは楽しめました。特にプロジェクションマッピングを使った舞台演出は初めて見ましたが、空想が好きな女の子というアメリの世界観にはとても合っていると思いました。さらに、転換も役者の皆さんが自ら行うこと、一人の役者さんが何役かをこなすことなど初めて知ることもあり、面白かったです。

観劇の中で分かりにくかった部分は、後で映画を観て照らし合わせてみたいです。そして今後はミュージカルも積極的に観に行きたいと思いました。(都市科学部二年  吉田詩織)


須川亜紀子
須川亜紀子
Akiko Sugawa-Shimada
横浜国立大学 都市科学部/都市イノベーション研究院 教授
Professor, Department of Urban Sciences/ Institute of Urban Innovation Yokohama National University
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