2019年3月16日
第5回2.5次元文化を考えるシンポジウム報告
2.5D プロジェクト
第5回2.5次元文化を考えるシンポジウム報告

第5回 2.5次元文化を考える公開シンポジウム~「バーチャルな身体のリアルー Vチューバ―の語りかけるもの」が、2019年2月23日(土)YCCヨコハマ創造都市センター 3階イベントスペースにて無事終了しました。今回で5回目を迎える2.5次元文化シンポジウムですが、年々一般の方や企業の方の参加が増えていることを嬉しく思います。

 まず株式会社ファボのCEO奥野翔太先生が「キャラクタービジネスとバーチャルYouTuber」が、制作者側の立場から、現場の様子や会社の方針などを話されました。アニメにおけるキャラクター中心の時代から、キャラクターそのものの時代へとシフトする現在、約7,000人いるとされるVチューバーたちに対し、35万人のユーザーがいるこの領域に、ビジネスチャンスと大きな可能性を見出しているとのこと。アニメのキャラクターなどと異なるのは、実在性による圧倒的親近感。確かに、アニメのキャラクターたちにメッセージを送ったとしても、返事はキャラクター本人からというのはあり得ないですね。しかし、Vチューバーなら「中の人」がキャラクター本人なのだから、リプが来るし、インタラクションが起きるという「ほんものらしさ」はこれまでの声優・キャラの具現化(「ラブライブ!」など)とは、一線を画すものです。

 奥野先生は、Cチューバー=キャラクターVチューバーという、人間以外のVチューバーにも力を入れています。人間ではないけど、人間っぽいキャラクター。人間の造形ではないものに対する、私たちの親近感を通じて、どんなCチューバーが出て来るのか、これからが楽しみです。

 つづいて、中垣恒太郎先生+川村丈志先生(共同発表)が「メディア文化史におけるVtuber」についてお話しされました。まず、中垣先生は、2.5次元を彷彿とさせる現役アイドルが、声優としてアイドルを演じる『超時空要塞マクロス』(TV1982-83; 劇場版1984)のリン・ミンメイにその萌芽を見ています。作中でアイドル歌手としてデビューし、主人公一条輝と絡み合いながら、戦闘+アイドルというスタイルを確立させたリン・ミンメイは、その後の「マクロス」シリーズの中でも伝説のアイドルとして作中に登場します。ミンメイの声を当てた飯島真理は、現実でも歌手デビューし、ミンメイとしてレコードも出しており、キャラクターとアイドル本人を同一視(もしくはクロスレファレンス)することは、現在のVチューバーの系譜に連なるという。アイドル文化を辿りつつ、バーチャルアイドル1989年の芳賀ゆい、1996年のCGアイドル伊達杏子など、デジタル技術の発達にともなって、実態のないアイドルも出現しました。

 さらには90年代のモーニング娘。、2000年代のAKB48など、アイドルブームが再燃するなか、2016年にVチューバーキズナアイが、AIとして登場(本当は人間が演じている)。2018年には、伊達杏子の娘、あやのがクラウドファンディングで登場するなど、バーチャルアイドルの系譜に、Vチューバーが合流していきます。そして、女性が占有していたバーチャルアイドル、Vチューバーの世界に、バーチャルジャニーズプロジェクト(https://www.showroom-live.com/campaign/v_johnnys)で男性Vチューバーアイドルが登場しました。大手が手がけるVチューバーとして、男性アイドルがどのくらい伸びるのか、注目です。

 最後に川村先生が、サウンドプロデューサーであり研究者でもある立場から、Vチューバーなどの、2.5次元キャラクターや、2、5次元という考え方に対し、さまざまな可能性を話された。主体感の多元化が、メディアの発達によって表現の場に観察されることは、アイデンティティの危機と取られる場合もあるが、川村先生はむしろ「n次元化するメディア生態系でサヴァイヴするためのセルフアダプテーションの一つ」であり、複数のアイデンティティをもつことは、いわば「(フーコーのそれにかわる)21世紀の自己のテクノロジー」でもあり、自然なオルタナティヴのひとつであると考えます。アバターが出てきた頃、サイバー空間で現実のジェンダーとは異なるアバターで複数アイデンティティをもったり、演出したり・・というものがすでに行われていましたが、Vチューバーは、技術だけに暴走する懸念としての「脳のアップロード問題系」へのカウンターとして、身体を介在させるという意味で、実は、よりオーセンティックに、自分というものの表現を実現できるのではないか、と川村先生は問いかけます。

 興味深かったのは、心理学の面からもVチューバーの利用価値が高いというもの。たとえばLGBTQの人々が、Vチューバーとして、自分の身体を使用して、2.5次元空間で自己表現をすることで、フィジカルなリスクを軽減できる可能性等。また自殺相談が一ヶ月で一万件を超えるなど、非対面でのLINEのセイフティネットとしての厚生労働省による活用例から、さらに進んでのAIチャットボットの開発も進んでいる。また東京大学下山研究室の「いっぷく堂AI版」にみられるように、カウンセリングでは、人間と対峙することを負担と感じる利用者、匿名性が時には安全性や利用可搬性を高める可能性、あるいは遠隔地等諸条件により対面が困難である場合など、「2.5次元概念」はライフサイエンス領野に、広い適応の可能性がある等、など、ただの娯楽ではないVチューバーの可能性も見えました。

 休憩をはさんで、後半は登壇者とモデレーターとフロアの参加者との質疑応答やディスカッションが行われました。Vチューバーを演出することについて、どのくらい本人の希望や意向が叶えられているのか、現実のアイドルの売り方とはどう違うのか、などVチューバーの現状に関する質問や、Vチューバーのアイデンティティや、安易に治療に用いることの懸念など、ジェンダーや病理に関係するコメントや質問も。

 まだまだ現在進行形の事象であるVチューバー。誰もがVチューバーになれるツールを得て、誰もがVチューバーを見つめるウィンドウがある現在、今後Vチューバーがどのような使われ方をするのか、またどのようにこのツールを使うのか・・・2.5次元文化の枠組みの中で、これからも注視していきたいと思います。


須川亜紀子
須川亜紀子
Akiko Sugawa-Shimada
横浜国立大学 都市科学部/都市イノベーション研究院 教授
Professor, Department of Urban Sciences/ Institute of Urban Innovation Yokohama National University
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