2019年6月23日
[舞台鑑賞] ロックオペラ「R&J」2
2.5次元ミュージカル・ライブシアター

学生の感想第2弾です。


2. 都市科学部都市社会共生学科 3年 岡村 夏希

明るいロック音楽共にまったく新しい『ロミオとジュリエット』、『R&J』が始まった。小気味よい前説を楽しく聞いたかと思えば、いきなり爆音のロックが始まり、俳優が強烈な歌声を披露した。これが「ロックオペラ」かと衝撃を受けた。『ロミオとジュリエット』と言えば、古典悲劇としてとても有名だ。ミュージカルとしてもたくさん上演されていて、両家の対立の場面で激しい音楽が使われることはあるかもしれないが、全編にわたりロック、それもシャウトをするような激しいロックが使われている『ロミオとジュリエット』は初めて観た。若者の行き場のないエネルギーや激しい感情がストレートに表現され、ロックコンサートのような高まりを感じた。しかし、ロミオとジュリエットがすべてを敵に回した後、悲しみに暮れるときに歌う歌は静かで、寂しく、前半の高まりとのコントラストからより切なく感じられた。特に印象に残っている音楽はジュリエットの仮死状態の姿を前にした時のロミオの歌だ。シャウトが言葉通りロミオの叫びとなって心が締め付けられるようだった。この歌はそこで終わりではないと私は思う。その後のシーンでの、ロミオが死んでいることに気付いたジュリエットの叫びが、より一層ロミオの叫びを強くした。歌に乗せた想いは、メロディーを伴って観客の感情を揺さぶるが、今回はハンドマイクを使っていたこともあり、どこか現実的でない部分もあった。それに対してジュリエットの叫びは音楽に乗ったものではなく、生身の人間の、本物の叫びのように感じられた。それを聞いた瞬間、2つの叫びがリンクして、2人の悲しみがより大きなパワーになって心臓に届いてきた。

 音楽だけではない。すべてにおいて、『R&J』は新しい『ロミオとジュリエット』だった。特に印象的だったのは登場人物の印象や、関係が全く違っていたことだ。ロミオとジュリエットは、純粋な青年たちというより、横暴なヤンキー青年とわがまま娘だった。そして、本能で生きるということが強調されていた。また、ロレンス神父や乳母はただの善良な人物としては描かれなかった。衝撃的だったのが、ロレンス神父がわざとロミオにジュリエットの仮死を知らせなかったことだ。今までの『ロミオとジュリエット』では、神父は本当に伝えようとしていたのにも関わらず、手違いがあって伝わらなかったという描かれ方をしていたものが多い。なぜ神父はわざと伝えなかったのだろうか。私が考えるに、ロミオとジュリエットの愛は本能の愛であるのに対して、神父や乳母の愛は生きるために使っている理性の愛だった。理性の愛で必死に生きている二人の前で、本能のままに本能の愛をつかもうとしているロミオとジュリエットは自身の生き方を脅かす危険な存在だ。だからこそ排除したのだろう。『ロミオとジュリエット』と言えば、純粋な愛に人々の心が動かされていく、というのが大きなメッセージだった。しかし、『R&J』では、本能だけでは生きてはいけない、現実がしっかり描き出されていた。

 シェイクスピアが『ロミオとジュリエット』を書いてから何百年もたっている今でも、その物語は誰もが知っているし、世界各国で上演され続けている。それは普遍的な愛の物語であると同時に、時代に合わせて様々な解釈や脚色、表現ができる戯曲の広がりがあること、そして何より、新しい価値を発見し続ける今を生きる人のエネルギーによるものだと感じた。何度も観ている『ロミオとジュリエット』だが、『R&J』としてまた新しく出会うことができて、本当に嬉しく思う。

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3. 都市科学部都市社会共生学科 2年 樋口紗也

「心揺さぶられる舞台~『Rock Opera R&J』を観劇して~」

 私は演劇が大好きなので、大きな舞台でプロの演技が観られることをとても楽しみにしていました。ただ、ロックオペラという言葉からミュージカルみたいなものかなと思っていたので、歌ばかりの劇が少し苦手な私は楽しめるか不安な気持ちも少しありました。

 会場に着くと、まず巨大な舞台セットに驚きました。パイプや鉄の柵などまるで工場のような舞台。これだけで物語の世界観が伝わってきます。それから開演前に登場人物の中の一部の人々が太鼓をたたきながら1階客席に入ってきました。席について落ち着いているお客さんたちのテンションが太鼓とバク宙などの彼らのパフォーマンスによってどんどん上がっていきます。私たちスタジオ生は2階席の最前列にいたのですが、ついつい前に身を乗り出してしまって後ろの人に注意されてしまいました。

 会場が少しあたたまってきたところで開演。開演前の曲の煽りも想像以上で何がはじまるのだろうとワクワクした気持ちにさせてくれました。最初の口上はとても丁寧でこの作品の概要を楽しみながら理解できました。個人的にはこの作品の雰囲気が伝わってきたことに感銘を受けました。私は演劇サークルに所属していて役者をやらせていただくこともあるのですが、会場があたたまっていないとコメディなのになんとなく笑えない雰囲気でお客さんの反応が悪いことがあります。コメディに限らず、作品の雰囲気を伝えたり、お客さんの緊張をほぐしたりする点で口上は非常に大切だと思います。それが丁寧になされていたこと、作品に入る前から楽しめたことでより本編を楽しむことができました。

 そして本編。心配していた歌はむしろ登場人物たちの心情を強く伝える重要な要素で、その迫力と役者の方々の歌唱力、キレッキレのダンスに終始圧倒されていました。そしてロミオ率いる不良集団と警察隊の戦闘シーンではアクロバティックな技や勢いある動きがとてもかっこよかったです。こうした戦闘シーン以外でも役者さんの身体表現は素晴らしかったです。場面転換のときに舞台装置を動かすことが多かったのですが、そのときは完全なコロスではなく、警察隊の方々が動かしてから一度ポーズをとってはけていたので作品の世界観からぬけることなく観ることができました。また、終盤のロミオがジュリエットの葬儀で彼女が死んだと勘違いし、悲痛な感情を歌うシーンでは周囲の人々がストップモーションをすることで舞台上がまるでロミオの心の中のように感じられました。

 この作品の中で一番感動したのはロミオとジュリエットの感情表現です。先ほど述べたとおり2階席ということもあり、舞台との間に距離がありました。それなのに二人の愛や怒りや悲しみはすごく強く伝わってきて私も同じ気持ちになったし、そこに迫力ある歌が加わることで心がぐわんぐわん揺さぶられているように感じました。そのことは終演後の友人や他のお客さんたちの興奮冷めやらぬ様子からもうかがえます。私もこんな演技がしたいと思ったし、観ることができて本当に良かったです。期待をはるかに上回る作品でした。 


須川亜紀子
須川亜紀子
Akiko Sugawa-Shimada
横浜国立大学 都市科学部/都市イノベーション研究院 教授
Professor, Department of Urban Sciences/ Institute of Urban Innovation Yokohama National University
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