発表要旨
今日のポピュラーカルチャーにおいては、キャラクターを享受することがコンテンツ経験における主要な関心のひとつとなっている。「2.5次元」はこのようなキャラクター享受のあり方を代表する文化であると言える。この発表では「2.5次元」への理解を手がかりに、キャラクターをめぐる楽しみを提供するメディアとしてのマンガを捉えることを試みる。
2.清水知子(筑波大学)「アダプテーションと身体の政治学」
リンダ・ハッチオンの『アダプテーションの理論』によれば、「アダプテーションは反復ではあるが、複製をしない反復」であり「翻案行為の背後には、明らかに多くの異なった意図がありうる」という(ハッチオン、2012)。本発表では、ディズニーが取り組んできたアダプテーションの手法と比較しながら、2.5次元文化におけるキャラタクーの身体をめぐるアダプテーションの手法と物語の変容のプロセスについて考えてみたい。
3.川村覚文(関東学院大学)「情動とメディア−宗教的身体:ラブライブ!に関する考察」
本発表では、今日の技術社会的でポスト世俗主義的な状況において、『ラブライブ!』声優−キャラ・ライブコンサートを、情動的で宗教的なメディアとして分析する。すなわち、ライブ・コンサートが、情動に触発された身体を媒介することで、強度のある共同体を構成するようなものとして考えることができるということを、提起したい。
4.藤原麻優子(早稲田大学演劇博物館招聘研究員)「2.5次元への困惑―既存のミュージカルと2.5次元ミュージカルの断絶について」
2.5次元舞台のファンと既存の演劇のファンとは、非常に明確に分かれているように思われる。いずれも同じく、俳優たちが舞台の上でなにごとかを演じるものでありながら、この2つのジャンルでは何がそれほどに異なるのか。本発表では、誰が・何を・どう見るのかという点を踏まえつつ、2.5次元ミュージカルと既存のミュージカルとを比較することで、両ジャンルの違いについてあらためて整理したい。
5.筒井晴香(東京大学/玉川大学)「見えないものを見ようとする――2.5次元と『推す』実践」
本発表では演出家・三浦香による「舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』」(2019年)における演出を取り上げ、「“推し”キャラクターを見つくそうとするがそれができず、しかしだからこそキャラクターの生きる場に居合わせていると感じる」という2.5次元舞台ならではの経験に光を当てる。なお、本発表は2020年2月に予定していた発表(中止)の改稿であり、「ミュージカル『新テニスの王子様』」(2020-21年)における同シリーズの刷新についても試論的に取り上げる。
6.須川亜紀子(横浜国立大学)「2.5次元文化の実践と”嗜好の共同体”の利用-海外事例を中心に」
本科研費プロジェクトでは、「2.5次元文化」に関するウェブアンケートを2017年9月~2020年8月まで実施した。有効回答数は、日本語258、英語477、中国語50、韓国語3であった。有効回答数の多い日本語、英語、中国語の量的調査の結果から、アジア、欧米各国でみられる2.5次元文化に関する理解と、「嗜好の共同体」(須川2018)とよぶべき“オタク的趣味縁”について考察する。質的調査として行った個別インタビューについて、特に「嗜好の共同体」がもつ避難場(アサイラム)としての機能と、SNS上での“弱い絆”ゆえに引き起こされる問題について考察する。
7.田中東子(大妻女子大学)「2.5次元ミュージカルのファンと〈男性性〉の商品化」
本発表では、〈男性性〉の商品化という行為に焦点を当てて、2.5次元ミュージカルのファン文化において、ファンによる応援行為がどのような意味をもち、どのような経験としてとらえることができるのか、これまでの発表者の研究を踏まえつつ試論的に考察する予定である。「〈男性性〉の商品化」と言うとき、そこにあるのは二つのプロセスである。第一に、それは「女性が男性を商品化する」というプロセスとして対象化可能である。こうしたプロセスは、これまでファン文化についてフェミニズム的視座から「男性による女性の商品化の問題」として批判されてきた問題構制と、比較しつつ検討することが可能である。第二に、それは「男性自身による男性性の商品化」、バネット=ワイザーの言葉を借りるならば「男性自身による自己のブランド化」のプロセスとして枠づけることができる。こちらについては、ネオリベ的モラルフレームを作り出していくポストフェミニズムの視座から検証することが可能である。発表時間は短いが、2.5次元ミュージカルの女性ファンへのインタビュー調査および数多くの参与観察に基づきつつ〈男性性〉の商品化について考察するためのアイディアを提供したいと考えている。